#SoilStory house F

2023.03

山の地形を切り取って造成した土地に建てられたFさんのお家。

斜面を切り取るということは表土を全て失ってしまうということになる。表土とは有機物が堆肥化しながら長い年月をかけて作られた植物や生き物が息づくことができる土。それがないということは、植物がなかなか育つことができない状況になる。

『何を植えても育ってくれない。』

そんなご相談からだった。

また、この敷地の上部には田んぼがあり、斜面にも常に水が滲んでいるような状況で、それが斜面を伝い家の裏手がいつもじゅくじゅくしているとのこと。

斜面の土の表情は礫が多めで赤黄色っぽく粒が細かい土

斜面の変換ラインにはお施主さんが自ら掘った排水の溝が付けられていたが、これ以上は岩盤層に当たって掘り進められないところまできてしまっていて、溝で排水を取ろうにも十分にはできない。

 

2023.05

2ヶ月後に再訪すると家の裏手斜面には草が生え、その奥の斜面には草が生えていなかった。

これは造成の時期が違い、草が生えているエリアは15年ほど前にお家を建てた時に削った部分で、その下流側のまだ生えていない部分は今年増築したときに新たに削った部分だからということだった。

いま草が生えているエリアもこの1〜2年でようやく草が生えるようになってきたとの話だった。

 

経年で斜面の上部に残っている落葉樹の落ち葉が溜まり、それが少しずつ草の生える基盤となった。

田んぼの水も染み出しながら泥を運び、あるいは土を少しずつ溶かし、また溜まった落ち葉も腐食となっていった。

草が生えている斜面は登ろうとすると抜かるんで足がとられるほどだった。

トロトロの泥と有機物が腐った臭いをもっていた。

このよう腐った臭いは有機ガスでこのガスが籠る状況では植物も呼吸がしにくく育ちにくい。

それでもなんとか生き延びている草があった。

比較的植物の生育が旺盛でスギなどの樹木の実生も見られるライン(上下方向)の斜面落ち側には紫陽花が植っていた。

斜面変換ラインの通気浸透が大事で植物の根はその機能を担う。ここではこの紫陽花がその役目を果たしその上部ではより環境が再生しているようだった。

 

 

2023.11 施工後

 

まず斜面の上部に残る雑木と足元の笹を風通し剪定することからはじめた。(これは7月だった。)

笹も全て刈ってしまわずほどよく風が通る程度とした。

風通しのバランスを整えた後斜面の施工に移り切りたてで草の生えない礫混じりの乾燥したエリアと草の生えているぬかるむエリアとでは違う施工とした。

 

造成後間もない乾燥した斜面では斜面変換エリアを重点的に面的に扱った。

敷地周辺に伐採した樹木が置いたままになってそれが外周の風通しを塞ぐようにも見えたので、それらを生かしてしがらみ構造を作り通気を保った状態で保水力を上げるような施工にした。枝葉によるしがらみメッシュの間には竹炭をまいたり落ち葉をつめたりしながら、人工的に経年で有機物が堆積していったかのような状況を作った。これがきったけになりしがらみメッシュの上部にもきっと今後落ち葉が堆積していくことだろう。そしてこれらの有機物が拠り所になり鳥たちが運んできたり風で飛んできた植物の種がひっかかり、そこで育ってくれるかもしれない。土がなくても有機物と石があれば案外植物は育つ。

自然が10年以上かけてやってきたことを真似てみた。時間が早送りできるだろうか。

 

一方造成から15年が経過し草が生えてぬかるむエリアは点での施工とした。

斜面を登りながらとくにぬかるんでいるところ、水が溜まっているところを点で掘った。

するとそれが線になってくる。そこが水の道だと読んだ。

そこを塞がないように意識しながら木杭を2本打ち込んだものに枝をしがらませた抵抗柵をつけていく。風といっしょに水は流れる。

これまで15年の歳月をかけて空気と水が作ってきた微細な地形に気を遣いながら、それをさらに時間を進めるように手助けしていったつもりだ。谷と山があってそこに循環が生まれる。

今はまだ斜面全体がだらっとぬかるむ状況になっているが、山と谷にの差異をはっきり付けていくことでより多様な植生が生まれそれが斜面全体の環境を再生していてくれるはず。